ETANA INTERVIEWー 「Wrong Address」や「Roots」、「Blessing」など、00年代後半を代表するヒット曲が詰まっていた『THE STRONG ONE』から3年弱、いまやジャマイカを代表する女性シンガーに成長したエターナの最新作『FREE EXPRESSIONS』が届いた。
〈思いのままの表現〉と題された2作目は、メッセージ性が高く、その分力強さが前面に出ていたデビュー作より柔らかな印象の作品だ。心の機微、感情を表した内面的な歌詞が目立つのも特徴だろう。その感想を伝えるところから、インタヴューを始めた。
「ファースト・アルバムで内面はあまり強調しないようにしたかも知れない」とエターナ。
「今回は母と祖母に当てた「I Got You」といった曲も作ったし…あの曲を最初に聴き返したとき、自分でも泣いてしまったの。ラヴ・ソングに関しては、1曲を除いて結婚する前に書いたのだけど。ただ、個人的な曲でも、人生そのものを見据えた視点を持っているとは思う」と、補足した。
ETANA / FREE EXPRESSIONS
VP RECORDS / VP1900 / IMPORTS
01. FREE
Producer(s): KEMAR "FLAVA" McGREGOR / NO DOUBT
02. MOCKING BIRD
P: KEMAR "FLAVA" McGREGOR / NO DOUBT
03. PEOPLE TALK
P: ROHAN DWYER / GROOVE CRUSADER
04. HEART BROKEN
P: CURTIS LYNCH JR / NECCESSARY MAYHEM & AUGUSTUS "GUSSIE" CLARKE
05. I KNOW YOU LOVE ME
P: KEMAR "FLAVA" McGREGOR / NO DOUBT
06. I GOT YOU
P: CLIFTON "SPECIALIST" DILLON & ALBERTO D'ASCOLA
07. HAPPY HEART
P: KEMAR "FLAVA" McGREGOR / NO DOUBT
08. MY NAME IS
P: STEVEN STANLEY
09. MOVING ON
P: CURTIS LYNCH JR / NECCESSARY MAYHEM
10. WAR
P: PATRICK SAMUELS
11. RETRIBUTION
P: STEVEN STANLEY
12. AUGUST TOWN
P: CURTIS LYNCH JR / NECCESSARY MAYHEM
13. VENTING
P: CURTIS LYNCH JR / NECCESSARY MAYHEM
14. DAY BY DAY
P: JOEL CHIN / VP RECORDS
15. DANCE
P: CURTIS LYNCH JR / NECCESSARY MAYHEM
デビュー作で成功を収めたアーティストのほとんどが直面するのが、ソフォモア・ジンクス。1作目を超えないのでは、というプレッシャーである。これを、「強き者(the strong one)」という名を持つエターナも経験したそう。
「前作と雰囲気が違うことで、少しナーヴァスになったけれど、直接言われた感想や、やフェイスブック、ツィッターなどでの初週の反応がとても良くて、やっと安心した」と笑う。
話に出た「I Got You」は、ビッグ・ヒットとなった「Blessing」を作り、一緒に歌ったアルボロージがクリフトン・ディロンと組んで作った曲だ。
「アルボロージとは1日に2曲を作って、1曲目の「Blessing」はデュエットだったから、私のアルバム用の曲は彼がプロデュース側に徹することにしたの。それで出来たのが「I Got You」」
アルボロージがどんなアーティストなのか、エターナから改めて説明してもらった。
「彼はとても面白くて、礼儀正しい人。もの静かで優しく話すタイプだけど、ステージではエネルギッシュなタイプに豹変する。あらゆる楽器が操れる人で、ミックスもマスタリングもできるから、自分のプロダクションは全過程を手がけているの。すごく才能があるわね」
ほかのプロデューサー陣では、イギリスのカーティス・リンチが5曲(1曲は大御所のガッシー・クラークとのコ・プロデュース)、ジャマイカのケマー・マクレガーが4曲と多めに参加している。アルバムを作るに当たって、プロデューサーの数を絞る方針だったのだろうか。
「いいえ、狙ってやったことではないわね。ただ、今までの経験からうまく行っているときは無理矢理に方向を変えないで、そのまま突き進んだ方がいいのをわかっているから、結果的に同じプロデューサーとたくさん曲を作ることになった」
この取材をしたのは、チーノとギャッピー・ランクスとUSの東海岸の数都市を回ったプロモ・ツアーが終わった直後。チーノに帯同していたスティーヴン・マクレガーと一緒に曲を作る話になったか、尋ねてみた。
「もちろん。こちらからのアイディアはもう伝えてあるから、それに沿って取り組んでくれると思う。あとは彼に任せる感じね」
カーティス・リンチが作った「Heart Broken」や「Moving On」では、少しラヴァーズ・ロック寄りの爽やかな歌唱を聴かせる。ジャマイカとフロリダで育ったエターナが、イギリスのレゲエにどの程度馴染みがあるのか、確認した。
「子供の頃は、毎週日曜日にカントリーを聴いて育ったの。土曜日はワン・ドロップばかりだったから、その中にイギリスのレゲエも含まれていたかも知れない」との返事で、特にイギリス産を意識したことはないようだ。
「ワン・ドロップにこだわりがある」と言いながらも、今回は「I Got You」や「Heart Broken」など、いわゆるレゲエ・フォーマットでない曲にも挑戦している。
「タイトル通り、何かを感じたらあまり考え過ぎずに表現してみた結果なの。母のことを思っていたら、それを自然に曲にすることで、ハートとソウルが込められたように思う。「Heart Broken」はR&Bに近いかもしれないけれど、ずばりR&Bでもないし…あの曲は、私の身に起きたことを包み隠さずそのまま曲にしていて、心の深い部分をさらけ出している。そういう意味では、ソウルなのよ」
ケマー・マクレガーとは「I Know You Love Me」や「Happy Heart」などハッピーな曲を作っている。昨年、結婚したエターナに「自分の状況を反映してのこと?」と訊いてみたら、「そうね、私、いまとても幸せだから」と、朗らかに笑った。ただし、この2曲は旦那さんに出会う前に作っていたとのこと。
「「Happy Heart」のヴィデオの撮影で、出演者のひとりだった彼と出会ったの。それまでにも2回会っていたらしいんだけど、私はよく覚えていなくて。お互いの目が合って、それで恋に落ちた」
結婚直後はジャマイカのメディアに対して詳細を伏せていた彼女だが、ここに来て気分がほぐれたのか、正直に話してくれた。「Happy Heart」のヴィデオを早速チェックしたところ、男性出演者はたったの3人と、ずいぶんと見当をつけやすい(正解は、相手役の男性)。
せっかくだから、ファンを代表して電撃結婚の経緯を訊いてみよう。
「相手に出会うには、心の奥底で、何を本当に欲しているか知ることが大切ね。それから、毎日、謙虚に静かに暮らすこと…。夫に会ったとき、私はとくに(相手を)探していなかったの。ただね、彼に会う1週間前に真剣にお祈りをしたのは覚えている。これ、正真正銘の実話。座って、自分が男性に求める資質をすべて思い浮かべて、お祈りしたの。それがすべて現実になったと気がついたのは(彼と出会った)その1ヶ月後なんだけど」
お祈りにしたのなら探していたのでは、と思ってしまった筆者は、スピリチュアル系の修行が足りないのだろう。「彼は俳優兼会計士だから、すごく助かっている」と、エターナは続けた。
「撮影から4、5ヶ月後に結婚したから、“早過ぎるんじゃない?”って言う人もいたけれど、私はそうは思わない。だって、実は相手のことをよく知らないまま何十年も一緒にいる人達だっているでしょう?」
アルバム全体から温かいムードを感じたら、それは歌い手のエターナの心情がにじみ出た結果だと思って良さそうだ。もちろん、彼女の持ち味である社会的メッセージを含んだ曲も用意している。
「どの曲にもメッセージは込めているけれど、とくにディープなメッセージが入っている曲となると、「War」と「Retribution」になるわね。「War」は反戦についての曲。反戦への思いはみんな同じで、実際に活動している人もいるわよね。それはそれでいいのだけれど、根本的に宗教や肌の色の違いといったことを一人一人が受け止めなければ、世界平和は望めないという考えを曲にした。「Retribution」は教会で赦しを請う人は多いけれど、カルマはもっと強いから、必ず返って来るということを歌っているの。相手が許してくれたとしても、自分の行いに対する償いはしないといけない」
エターナに日本のファンに必ず伝えたいことを尋ねて、取材を終えた。
「今は、『FREE EXPRESSIONS』のプロモーションに取り組みながら、ウェブサイト(www.etanathestrongone.com)と服のラインに力を入れているところ。日本のファンには「Wrong Address」からずっとサポートしてもらっているから、お礼を伝えたいな。そのうち日本に実際に行って、文化に触れたり、女性の生活ぶりを見てみたいわね。あと、ジャマイカでダブを録ってくれる人たちは、私の曲を日本で流行らせてくれているんだ、といつも思っているわ」
(注:このインタヴューは東日本大震災以前に行われたものです。エターナからのメッセージは『Messages from Jamaica』にてご覧下さい)
interview & text by Minako Ikeshiro(@minakodiwriter)
★『FREE EXPRESSIONS』特集 & 二木崇さんのコメントはこちらから
THE STRONG ONE VP RECORDS / VP1800 / 2008年 |
REGGAE GOLD 2010 VP RECORDS / VP1909 / 2010年 |